無念リストを作る

感情の取り扱い事例
不幸に慣れていた受講生の気づき

私たちは日々、選択と決断を繰り返しています。悩みの多くは、「この選択で間違いないか?!」といった選択の際に起こっていて、後悔は思い描いた結果に至らなかった自分の選択と決断に抱えるものです。

受講生はこの2週間の出来事を振り返りながら「私も当時、予備校に行きたいと思っていたことを思い出しました。」と語った。予備校を考える年代だから、まだ受講生が10代の頃の話だろう。子どもの頃は選択権の多くは自分に無い。親というスポンサーがOK出さないことには、やりたくてもやれないことがあるものだ。受講生は多くの無念を抱えているように見えた。

そうか…あなたはたくさんの「私もこうだったら」といった無念を抱えているんだね。なら、無念リストを作成すること。次の講座までに、無念と感じていることをリストアップしてきて!と私は受講生に宿題を出した。

次の講座に現れた受講生から宿題の報告を受けたのだが、無念リストを作る過程で得た大きな気づきをシェアしてくれた。

「書き出しているうちに気づいたんです。無念と思っていたことが実は、今の私に役立っていると。このことが無かったら、今の私にはなっていない。今になるためには必要なことだったんだと。」あぁ…素晴らしい気づきだ。私は本当に嬉しかった。受講生が力をつけてきているのがよくわかる。この受講生に付きつつある力は大きく2つある。

ひとつは気づきの力だ。全ては気づくことから始まる。となると、気づける力があるかどうかは人生を大きく分ける。今までどんなことを自分が無念に感じているのかを書きながら、「でも…これがあった結果、今があるんだよね」といった別の面に気づけたんだ。私たちも出来事も決して一面ではない。多面だ。出来事の多面性に気づけたことが素晴らしい。受講生の感情を抑える蓋が緩んでいっていて、感じる感度が上がってきていることが、このことでわかる。

感情は自分の人生を豊かにするための最大のヒントなのだけど、現代人の多くは感じてはマズイと解釈した感情を感じないようにしている。例えば、傷ついた気持ちに意識が向きすぎてしまうと立ち止まってしまって前に進めなくなる可能性を感じていて、立ち止まるぐらいなら傷ついてないフリ、傷ついていない風で乗り切った方が賢明だと誤解してしまったのかもしれない。生きていくためのひとつの工夫とも言える。ただ、そうやっているうちに心はどんどん硬くなっていく。感じる柔らかさを失うんだ。それに感情の蓋を閉じたままだと大切な情報も感じられない。それどころか、いつか無視してきた自分が暴走し始める。平然とした仮面を被ることにも限界が訪れるものだ。

もうひとつの力は、自分の今を受け入れたということだ。つまり、今の自分を許したということ。今の自分を自分で許すことができなければ、受け入れることはできない。こうでなければならないといった「べき」からではなく、今の自分もいいじゃないかと等身大の自分への許しがあったから受け入れれるようになったんだ。当然、まだまだ深い部分に未処理は残っているものの、受講生の今回の気づきと許しと受け取りは本当に素晴らしいものだ。

弊社の講座はマイナスを0にするのが目的ではない。マイナスは当然0になり、0がプラスになっていく「成熟」を講座の目的の中心に据えている。今回の「無念」からの気づきは、受講生にとって彼女の成熟の旅がいよいよ始まる予感を感じさせた。

講座では、『気づき、許し、受け取る』そして『受け取ったからこそ気づける次の気づきから、許し、受け取る』といった具合に、気づき、許し、受け取を繰り返しながら自分の中心に近づいていく。ただ、この繰り返しは平面でなされるものじゃなく奥行きがある。
螺旋階段は上から平面的に見ると同じ場所を何度もぐるぐるしているように見えるが、横から見ると同じ場所でも、一つ下の段に深まっていて、同じ場所に立っているようで実は違う。(右図)

人には「なぜ?どうして?どこで間違ったんだろう?」と無意識のうちに自分を責めて、「こんな自分はイヤだ」に多くの時間を過ごしてしまうときがある。
最初に弊社の講座に現れた時の受講生は不幸のうちに身を置くことに慣れていた。もちろん受講生の今までは決して不幸ばかりでは無かったはずだが、意識は辛い出来事にフォーカスされていて、その辛いことが受講生の人生そのものと捉えているように見えた。不幸な自分を地でいっている感じで、争ってないことの方が私には引っかかった。辛い状況でも我慢できる自分にアイデンティティを感じているようだった。「こんな大変な状況にいても私、頑張れます!」といった感じで、ある意味、自分の強さを証明するためにあえて不幸な場に身を置き、耐えている感じだ。
そんな強さの証明は不要だし、そもそも誰に証明しようとしてるんだろうと私は感じていた。この部分はこれからの受講生の更なる気づき、深まりといった次の課題につながっていくはずだ。

あぁ…やっと始まる!自分の豊かさに受講生自身が最も驚くだろう。いや、彼女は薄々感じているのかもしれない。自分の輝きを。だとしたら、躊躇せず思いっきり彼女自身を発揮できるようサポートしていきたい。
改めて受講生の力を労うと共にお礼を伝えたい。本当に講師冥利につきる時間だったよ。ありがとう。