父への積年の怒り


【感情の取り扱い事例】
バカバカしく思ったんです。

父のおかげで我が家はボロボロになった。大変な被害を被って、今でも恨みがある。
と前回の講座で語った受講生への宿題は怒りを書き出すというものだった。
受講生は「2連休の初日に宿題をする」と宿題をすると計画も言っていた。なぜなら、積年の恨みを書き出したら相当な時間がかかるだろうし、泣きはらした目で会社に行くわけには行かないからといった理由だった。このことからも相当の怒りを溜めていることが察せられる。

子どもの頃から、お金や暴力といった面でいつもいつもトラブルを引き起こしていた父。母は父のおかげでしなくていい苦労をし、受講生自身も警察ごとに巻き込まれるなどいつも大変だったという話は講座でしてくれていた。

2週間後、講座に現れた受講生は宿題の報告をしてくれたのだが、予測していものと大きく違っていたという。どういうものか尋ねてみると、張り切ってノートとペンを用意し書き出すと10分〜15分で父への恨み言は終わってしまったらしい。

なんか、馬鹿らしく思えてきたんです。だから、すぐに終わってしましました。

書きながら何を感じたの?という私の質問に

私が描いていた理想の父親と比較して現実の父に対して怒りを持つなんてバカバカしく感じてきて…。私、こんなことを何十年やってきたんだろうと考えてみたら、アホらしいと心底思いました。私が期待する父とは違う父だった。それだけのことだったんです。

受講生は父への怒りを書き出すことによって、事実に直面化し、事実を受け入れていた。もっと早く自分の気持ちを見つめていたら、もっと早く気づけたかもしれない。といった後悔というか、残念にも感じるかもしれないが、当時は当時の自分でその時できるベストな選択をしていたまでのこと。今のタイミングで気づくことに意味がある。

宿題をやってからの父への私の態度にそう変わりはないが、心持ちは全然違う。だからでしょうか。すでに寝たきりの母が穏やかな顔をしているんです」とも話してくれた。大好きな母が穏やかな顔をして寝ている姿を見ることは受講生の幸せに通づるとも。

自分の気持ちを許すと、周りの人も許せるものだ。
私たちは自分との関係がうまくいく時、周りとの関係もうまくいく。怒りを溜めていたのは、父の行為への怒りではなく、自分の理想とする親像とは違う事実を受け入れず、幻想にしがみつく幼稚な自分への怒りだったことに受講生は気づいたようだった。

受講生の父はきっとこれからも変わらない。
しかし、受講生が父に抱く感情は確実に変わる。
今回の受講生は事実に気付く以前、幼少期の被害者的な立ち位置から年老いた父に対して加害者的な立ち位置をとってしまっていた。被害者意識は恨みとなり、弱くなった昔の加害者に対して自ら加害者のような役割をしてしまう時がある。が、気づけた受講生は自分の中心に戻ることができる。
受講生の心の声は「なぜ?どうして?何でお父さんはいつもそうなの?」といった批判的なものから「そうだよね。そうやるんだよね。」といった共感的なものにどんどん変わっていくだろう。

このタイミングでお気づきになった意味は何だとお想いになる?

私の質問に受講生は、「すっかり年老いた両親との今後の関係性だ」と答えてくれた。

後悔なきよう、両親とご自身にしっかり取り組んでいきましょう。

今回のケースでは受講生は自分の中心に戻り、加害者的な存在であった父を受け入れ、良い関係性を作っていくだろう。しかし、これが全てのベストではない。過去の加害者的な存在を遠ざけることが有効な場合もある。それは今のご自身のお力と相手の今の状況によって変わる。