感情の取り扱い事例
真面目な人ほどイライラしているのは
私たちは自分のことをわかっているようで、わかっていません。時間が経ち、当時を振り返って初めて自分の本当の気持ちがはっきりわかった経験をしたことがあると思います。今の自分の気持ちを理解しているようで、そうではないのかもしれません。
例えば、荒々しく波打っている海でも、深くもぐると静かにじっくりと流れています。同じ海でも海面と海底では状態は違います。私たちの気持ちも海のようです。海面は意識できる表層意識で、いつも意識できている意識。海底は深層意識で、自分さえも意識できてない意識と言ったらいいかな。自分の深い部分。その深いところの意識を探る手がかりが感情なのです。
エネルギーが大きな感情にイライラや怒りがありますね。イライラや怒りが生まれる理由は3つほどあります。
ひとつは、フラストレーションです。肉体的な疲れのサインです。普段の生活を見直すいい機会かもしれません。フラストレーションかどうかを確認するためには休んでみる必要があります。
休んでも尚、イライラが消えないとなると残りのふたつをチェックしなければなりません。ひとつは改善のサインです。怒りの裏には哀しみがあります。例えば、自分が全力でやっているのに、チームメンバーが協力してくれない時は哀しいものです。
なぜ伝わらないんだろう、どうして一丸となれないんだろうと、周りを責めているようで実は、自分には力がないんじゃないか、このままじゃダメになると、自分を責めています。また、実際に生産性が低いことをやっていたりするのかもしれませんね。怒りは改善のための大きなエネルギーです。どこが、何が嫌なのか、何にイライラするのかをよく見る必要があります。
怒りの最後の視点は、あなたが自分に禁じてきたことを相手に見る時です。自分の嫌なところや認めてない自分の一部を相手に見た場合に人は怒りを感じます。
受講生はとても真面目な方です。彼が受講にいらした理由は、チームメンバーにイライラが募るというものでした。チームの責任者としてこれではマズイと感じてらっしゃったようです。
彼はとても仕事熱心で、成長意欲が高く、若い頃から少しの余暇も自分に許してなかったと言います。仕事中心の生活をし、空いた時間は成長のための勉強に当てていました。若手の頃なら真面目で良いのですが、上司になっていくと人がついてきません。それどころか、自分のように寸時を惜しんで努力しない部下にイライラが募っていったそうです。
これはイライラや怒りが生まれる最後の理由の「自分に禁じてきたことを相手に見る時」ですね。彼は自分に禁止してきた余暇を部下が平然とやっていることに猛然と怒りを覚えていたのです。
彼にはまず、怒りの構造を理解してもらいました。構造を理解した彼への宿題は登山です。学生の頃、登山が好きだったが仕事を始めて辞めたというので、有給を使って登山を楽しむことを宿題にしました。真面目な彼はすぐに実践してくれました。次の講座に現れた彼は「久々の登山はとても楽しかったが、仕事に一区切りつかないと心から楽しめない自分もいた。自分の役目から仕事をしているつもりだったが、自分が好きで仕事をしていたんですね。そのことがよくわかりました。」とおっしゃったのです。
させられている訳ではなく、自分が選択していることがはっきりわかってからイライラしなくなったそうです。
彼は成長することが楽しくて、自ら仕事に真面目に取り組んだり、余暇を削って勉強していたのに、いつの間にかやらなければいけないことにすり替えていたのです。私たちにはよくあることです。カール・ホルネイは「wishがclaimになる」と言いました。
その後、受講生は仕事に区切りをつけては頻繁に登山を楽しむようにもなり、そのことで部下との会話が増え、以前よりコミュニケーションがスムースになったそうです。コミュニケーションに余計なストレスを感じない分、仕事も捗るようになったと報告してくれました。「自分で決めたことなのに、いつの間にかやらされている気分になっていたなんて幼稚でした。自分で選択していることがはっきりしでから腹が決まった」ともおっしゃっていました。
とても優秀ですね。このケースの怒りは、自分の抑圧に気づき、自分が自分に課しているルールを見直してみましょう、少し緩める時が来ていますよ、といったサインです。
真面目な人ほど、自分に課しているルールは少なくありません。そのルールを自分で選んでいる意識を持っていないと、ルールを途中で止めることができないため、だんだんとやらされ感が募っていきます。自分が作った自分のためのルールを人に押し付けるようになっていき、イライラしてしまうのです。
イライラや怒りを対処で片付けるのはもったいないことです。感情は大切なシグナルだと理解すると自分の深い部分に気づけるようになっていきます。