感情の取り扱い事例
【努力したというアリバイが必要で、踏ん切りがつくまで繰り返す】
夫婦の満足度調査などを見ると、大概、夫への妻の満足度より妻への夫の満足度の方が高い。理由は諸説あるが「夫が妻に一方的に精神的なケアされているケースが多く、夫に自分のケアを求めることを妻は諦めてしまっている」という説は、多くの受講生をみていても感じることだ。
今回の受講生は、子どもが独立するのを機に、長年連れ添った夫との離婚をずっと考えていた。
結婚には3つある。
ひとつは、親を喜ばせるための結婚。
ふたつめは、子育てのための結婚。
最後は、心のパートナーを求めた結婚。
子育てのための結婚を終わらせて、次に進みたいと望む妻は正直、少なくない。彼女はそんなタイミングでの受講だった。
「もう、50をすぎてしまってるから色々考えたんですが、今しかないと思うんです。彼と話し合っても無駄だと思うので家を出ようと思っています」と淡々と話をした。よくよく聞いてみると、夫には他に女性がいるようでもあった。
その受講からしばらくして家を出た受講生は晴々とした顔で講座に現れた。何十年かぶりに手に入れた自由を謳歌しているといった雰囲気があふれていた。なのに数ヶ月すると「夫の元に戻る」と言う。
理由を聞くと、彼女が家を出てから数ヶ月間、夫は謝り続けたらしい。
付き合っていた女性とも縁を切ったらしく、彼女はもう一度チャンスを彼に与えてみてもいいかもしれないと感じたと言う。
「この判断でいいのかしら?」と尋ねてくる受講生に、「あなたはどう思うの?」と聞き返すと「わからない」と答えた。
夫が受講生の望む通りに変わるとは、彼女自身も思っていない。
彼女は夫の謝りに応え、それぞれに努力したというアリバイが必要なのだ。「やるだけのことはやった。だからOKだ」ということをして、自分に言い聞かせようとしている。
なぜなら、夫と正式に離婚することは今までの人生が無駄になるような感じがまだ強いのだ。ダメだったと思いたくない。ダメだったということは自己尊重感が著しく傷つくので、人は自分を守るための行動として、そういった選択をすることがある。
もちろん、長年連れ添った夫婦だ。これからの関係性がより良いものに変化していく可能性もある。例えばセックスができて、受講生が満足できたならば、彼女は夫を受け入れたということだから復活するだろう。
一方、いよいよ破綻を迎える可能性もある。
夫が「僕はこれだけの努力をしているのに」と怒りが爆発するかもしれないし、彼女が「やはりダメだ」と見切りをつけるかもしれない。互いに他に好きな人ができる可能性だってある。そうあれば互いに新しいステージに立つ。最後は、合理的に「どう生きるか」の選択になるだろう。
ただ、こういったケースは踏ん切りがつくまでは繰り返す。
何への踏ん切りかというと「執着」だ。
男に対する執着、自分が関わったという執着、貢献した自分への執着。
ここまでの説明を聞いていた受講生は「執着…」と呟きながら、自分の心のうちを探っているようだった。が、本人が納得するまでやるしかない。それに、迷いがなくなる瞬間がベストなタイミングで必ずくる。
しっかり確認してみましょ!と周りを見渡すと、話を聞いていた男性受講生たちの顔が恐々としている。身につまされることがあるのだろうか?思わず笑ってしまった。