うろたえるのは独り相撲 ー後編ー


感情の取り扱い事例
「そもそも」を吟味することが大事

ビジネスでも成功し、プライベートもうまくやっている女性経営者の受講生。彼女が抱えていた課題は「うろたえる」思考の癖だった。

うろたえる必要がない出来事にも「うろたえる」にはそれなりのメリットがあるのだけど、いつもいつもうろたえていては、経営者に母に妻に…と役割が多い彼女には身が持たない。

問題が解決しない際は「前提」が間違っているケースが多い。
「前提」というと難しく聞こえるかもしれないが、「そもそも」のことだ。
例えば、新卒の社会人が「仕事がいつまでたっても楽しくない」と悩んでいたとする。すると、人は「やりたいことをやってみたら?」「プライベートが充実してないんじゃない?」「目標を決めてないからだよ」といったようなdoingでアドバイスする。
しかし、これは対処であって根っこを扱っていない。4nessコーピングでは、根っこのところ(being)を扱う
このケースで言えば、そもそも「仕事」をどう捉えているのか?そもそも何のために働いているのか?といった具合だ。
新卒の社会人が「仕事とは大変なもの」「お金や生活のために働いている」と言えば、的外れではないが前提が間違っている。この「そもそも」が歪んでいれば、現実は歪んで見える

歪んだ前提が現実を歪ませ、歪んだ現実が歪んだ前提を強化する。クレバーな受講生が「うろたえる」思考の癖を手放さなかった前提、そもそもを彼女と一緒に考えてみる。

そもそもどう思っていたから、「うろたえる」思考の癖を手放さなかったのだろう?

そもそも…と呟きながら俯いて考えていた受講生は苦笑した。
「そもそも、私はうっかり屋さん」だそうだ。

小さい頃から、母にいつもいつも注意されていたと言う。「あなたはうっかり屋さんだから、備えあれば憂いなしと言うでしょ。うろたえないで良いように準備を怠らないように。」と。

準備を怠ってうろたえる人はどんな人と思っている?

といった私の質問に受講生は「周りに迷惑をかけるダメな人」と答えた。なるほど!つまり、『私はそもそも周りに迷惑をかけるダメなうっかり屋さん』と思っているわけね。

何事も準備して臨んだ方が当然良い。しかし、準備が万端に整うことはそうはない。その上、準備していた通りにコトが進まないのが人生だ。だから、うろたえる。
予測通りにコトが進まないことは受講生にとっては自分の準備不足が理由で、準備をするのはうろたえないくて良いようにだから、準備ができてなければうろたえるんだ。

確かに受講生にうっかり屋さんの部分はあるのかもしれない。しかし、うっかりがない人がいるのだろうか。そんな人は居ないだろう。ただ、うっかりしていても落ち着いて対処する人はいる。そういった人にとっては、うっかりは単純に次に気をつけることであって、それ以上でも以下でもない

それに、受講生は充分にうまくやってきている。長い人生の中で、果敢にチャレンジし、結果を出している。なのにいつまでたっても子どもの頃の「うっかり屋さん」という前提を手放していなかった。

人の人生は長い。昔はそうでも今は違うといったことが多々ある。人は定期的に自分の概念の棚卸をする必要がある。当然、昔からずっと変わらないところもあるだろう。それは持ち味として概念を変え、実際に変化したところは新しい自己概念にバージョンアップする。

だからだ!彼女は大きな会社の経営者であるにも関わらず、落ち着きがなかった。バタバタしているというよりチョコマカしていて、良い年齢なのにエレガントな落ち着きといったものがイマイチ、身についてないように思われた。

受講生に自分の概念の棚卸と落ち着きというものを考えてみましょうといった宿題を出した。まるで部活の中学生が監督に指示された時のような返事の仕方で「ハイっ!」と言っていたが、そんな彼女もきっとエレガントさが増すだろう。

彼女の今に見合った振る舞いが彼女の美しさをさらに輝かすはずだ。
これからの彼女がさらに楽しみだ〜!