うろたえるのは独り相撲 ー前編ー


感情の取り扱い事例
「そもそも」を吟味することが大事

今回の受講生はとても成功している女性経営者
家庭も落ち着いていて、子育てだからそれなりの苦労はあるものの、子どもたちも健全に育っていて順調。ビジネスもプライベートも充実していて、受講生はさらに成熟を深めるために4nessコーピングを受講していた。

「最近、とても疲れが取れなくて…。先日もうろたえてしまったんです。」と語り始めた出来事を聞いていると、正直大したことではない。
たくさんのことを同時になさっているので、そりゃ手違いや思い通りに進まないことはあるだろうが事実、結果は上手くいっている。受講生が疲れているのはどうも起こった出来事からでも肉体的なものでもなく、精神的な疲れのよう。疲れている時、疲れやすくなっている時は考えすぎなことも多い。

うろたえる癖があるんじゃないの?という私の質問に、受講生はポカン。話を聞いていると本来、あなたがうろたえるような出来事ではない。なのに、うろたえるというのは、うろたえる出来事が起こっているのではなく、うろたえるという反応を選んでしまっている思考の癖があるではないだろうか。

「うろたえる」思考の癖を持っていると、「こうじゃないか?」「あんな風になったらどうしよう?」と考えが先行して、不安が増大してしまう場合がある。そして、不安ゆえにさらに考えるといったスパイラルに陥り疲労困憊してしまう。

4nessコーピングはABC理論がベースとなっている。

ABC理論とはアルバート・エリスが1955年ごろに提唱した心理療法で、心理的問題や生理的反応は、出来事や刺激そのものではなく、それをどのように受け取ったかという認知を媒介として生じるといったもの。

ABCはそれぞれの頭文字で、
A:Activating event(出来事)
B:Belief(信念、固定観念)
C:Consequence(感情や結果)
といった意味がある。

シンプルに説明すると、
Aの出来事がCの結果や感情に強く影響するのではなく、Aの出来事をBの信念や固定観念(わかりやすく言うと思い込み)によってどう解釈したかによって、Cの感情や結果が決まるといったもの。

つまり、この受講生の場合、どんな出来事(A)が起ころうが、「私にはいつもうろたえることが起こる」といった思い込み(B)があれば、結果や感情(C)は「うろたえる」というケースになりやすい。

わかりやすく極端な例をあげると、
・時間に5分遅れそう→うろたえる
・子どもが元気ないように見える→うろたえる
・大切な取引先から返信がない→うろたえる
・体重が少し増えた→うろたえる
といった具合だ。
事例を挙げて説明すると、頭が良い受講生は深くうなづき「そのとおりです」と。受講生がかなり疲れているのもわかる。そりゃそうだろう、
✔︎子どもたちの言動にうろたえ、
✔︎新しいプロジェクトでうろたえ、
✔︎取引先の反応でうろたえ、
✔︎時間が迫っていることにうろたえ、
✔︎体重がすこし増したことにうろたえていたら、時間がいくらあっても足りない。こんなことをしていたら擦り切れてしまう。

全てのことには陰陽があり、やり続けていることにはどんな非合理に思えることでも本人にメリットがある。この「うろたえる」にも受講生にとってはメリットがあるはずだ。

受講生は「うろたえる」のデメリットとメリットを以下のように回答した。
「うろたえる」デメリットは、疲れる。やる気がなくなる。心配で心配で不安になる。
「うろたえる」メリットは、深く考えることでいいアイデアが浮かぶ。用心しておくことに越したことはない。

その通り!「うろたえる」ことにはメリットがあったのだけど今回は、メリットを通り越してデメリットの部分が強くなっていたよう。

この思考の癖は「うろたえる」だけではない。「私はいつも大変なことばかり…」「必ず私には問題がおこる」「私は失敗ばかりする」「私はいつも混乱する」といったことは全て解釈だ。事実ではない。

考える最初のステップは「事実」と「解釈」を分けなければならない
例えば、取引先から「今は忙しいので、少し考える時間をください」と言われたとする。事実は「時間が欲しい」だけだ。しかし、ここに解釈が入るとどうなるか。「断ろうとしているんじゃないか?」「何か失礼なことを私はやってしまっただろうか?」「やっぱりダメか。」といった具合になっていく。

こういった場合に、ネガティブ思考ではなくポジティブ思考が効果的だと世間で言われているが、決してそうじゃない。思考レベルの話は植物で言えば枝葉で、根っこが大切な課題だ。根っこを取り扱わずに、枝葉だけ整えても結果は結局繰り返す。いや、ポジティブ思考といった思考レベルで上手く取り繕えてしまうと、根っこの課題を扱い損ねてしまう。そうなると、今はいいかもしれないが必ず5年後、10年後、ツケが回ってくる

「独り相撲。。。」

受講生は私の説明を聞きならがらつぶやいた。
独り相撲とはいい表現だ。確かにそうかもしれない。人は全員がそれぞれに独り相撲を取っているだけなのかもしれないよ。

賢く、力がある受講生は、事実を受けいれ、こんなことを話してくれた。「今までを振り返ってみても相当うろたえて生きてきた。それはうろたえる事実があったのではなく、うろたえる自分の思考の癖だったんだと思うと半分、やるせない気分だけど、残りは「今後は確実に変わる!」といった実感を感じている。」

大切な根っこを扱うには、この思考の癖を作り出している「そもそも」を取り扱わなければならない

「そもそも」の取り扱いは次回!