cinema 『グリーンブック』


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感情の取り扱い事例
ミッドライフ・クライシス

私たちは自覚がないまま環境適応的に作られた自己を使って生きていく

幼少期、家の中に居場所を確保するためには、生まれた家の環境に適応する必要があり、適応するための自分を自分だと思い込んでいく。そんな環境適応的に作り上げた自己と本来の自分には当然、大なり小なり距離があるものだ。
ただ、大きな隔たりがある場合、現実社会で不具合が起こる。お金の問題、訴訟、パートナーとの関係性、子育てなどなど。不具合とまではいなかくても例えば、「この人生で良かったのだろうか?」とか「先が見えてしまってやる気が起きない」といったことはある程度の年齢になれば考えるものだ。つまり、人生の前半を振り返るようなタイミングがくる。

これをミッドライフ・クライシス(中年の危機)と呼ぶ。
ウィキペディアには、「中年の危機とは、中年期特有の心理的危機、また中高年が陥る鬱病や不安障害のことをいう。」とあるが、私的には鬱や不安障害といった症状より、より自分らしい生き方を選びなおすタイミングと捉えている。
実際、4nessコーピングのセミナーにはこのタイミングで受講なさっている方も多く、今までの人生を振り返り、環境適応的に作ってきた自己(これを4nessコーピングでは通常「セルフのB」と呼び、「自分はこういう人間だ」といった自己認知のことを言っている)だけではやっていけない場面が出てくるので、本来の自己との統合を図り、新しい自分を創っていっている。

今回、ご紹介する映画は『グリーンブック』。
映画の見方は様々だろうが、4nessコーピング的に言うとこの映画は、白人男性と黒人男性との二人の関わりによって互いに己の統合が行われる、成熟を描いた映画だ。

男性性を発揮して生きてきた白人男性と、男性性を抑圧し女性性を発揮して生きてきた黒人男性が一緒に旅をすることによって、白人男性は女性性を育み、黒人男性は男性性を育んでいく。成熟とは相反するものを統合することにあるが、それは自分の中だけの相反するものでおこなわれるものだけではなく、違う生き方をしてきた他者との間でも行われることをリアルに描いている。それも実話という。白人男性は職を失っていたし、黒人男性はチャレンジすることを自分に課していた。ふたりに共通しているのはミッドライフ・クライシスにあることと、「何かを変えなければならない」と感じていたこと。

男性性を発揮して生きていた白人男性が「俺の親父は何をやるにも100%でやれ!と言っていた」と父親の言葉を引用するのに対して、男性性を抑圧して生きてきた黒人男性は母のことを口にする。

映画の中では、偏りがある生き方から統合が行われ、互いに成熟がなされていく。たまたまタイミングが合って鑑賞させてもらったが、とても良い映画だった。まとまりある自己になるとはこういうことなんじゃないのかな。