会社に行きたくない経営者

感情の取り扱い事例
会社に行きたくない経営者

皆、現実に起こっている何かを変えたくてさまざまな努力をしている。本を読んでみたり、習慣を変えようとしたり、できる人のやり方を見習ってみたり。人は何かを変えようとする時、行動から変えようとする。例えば、ダイエットしようと思ったら、食べ方を変えてみたり、体の動かし方を変えてみたりといった具合だ。しかし、人が変わらない最大の理由は、この「行動」から変えようとすることだと言われている。

 私たちの現実は「自分が思っている自分(セルフのB)」を映し出したもの(まるで影絵のように)であるならば、その「自分が思っている自分」を変えることによって現実は変わる。「行動」からのアプローチはその後の話だ。

私たちは「私が思う私」になる。これが真実であれば、私が思う「私」が変われば、私は変わるということだ。このことを4nessコーピングでは投影図(右上図)を使って、「私が思い込んでいる私」を見立てていくのだけど、「私が思う私を変える」といった説明をすると、「セルフイメージを変えれば、現実が変わるということですか?」といった質問をもらうことがよくある。しかし、それとは
すこし違う。どこが違うかと言うと、意識か無意識かといった領域の違いだ。無意識という言葉に抵抗を覚えるなら、自覚があるか無自覚かの違いだ。セルフイメージを変えるのは、例えばアファメーションといった自分に言い聞かせる手法を使った意識の領域のことであり、セルフイメージの書き換えは自覚的にアプローチをすることであるならば、セルフのBは無意識の領域で無自覚を扱う。この領域の違いは大きい無意識のパワーの元には私たちの意識などほとんど役に立たない。「頭ではわかってはいたんだが…」というようなことを起こしてしまうのは、まさに意識では十分に理解していたが、無意識の力には敵わなかったと言っているようなものだ。

長年コーピングを学んでくれているこの受講生は、無意識の影響を自分のビジネスのお客様に対して感じていて、「無意識」に強く興味を持っていた。そして受講当初はよくご自身のセルフのBに触れては「会社に行きたくない」と言っていた。

高校生になって成績が伸び悩んだ受講生は、志望大学に合格することを断念し、別の道を進んでいた。受講に訪れた時の受講生は、その別の道で独立し充分、成功を収めていたのだけど、何かがくすぶっている感覚は受講生から強く伝わってきていた。受講生のセルフのBはまるで人生全体を使って繰り返しているパターンを作りだしているようだった。

学びを深めると、受講生は「4nessコーピングは危険な面がある。」と言い出した。確かに目に見えない心を扱うことには、ある種の危険な面がある。こういった正直さを私は歓迎する。受講生は「セルフのBを扱うと、ドーンと心が沈む。何もやる気が起きなくなる」と言う。だから会社に行きたくないと言っていたのだろうが、セルフのBを扱ったら皆、沈むわけではない。それどころか、セルフのBを自覚し、数ヶ月で何億と稼いでしまう受講生さえいる。つまり、これこそが発言者、受講生のセルフのBなのだ。セルフのBは無意識だからこそ、本人は当然と考え、いや意識さえしていないので当然とか受け入れるとかといったこと以前に、自然すぎてこのことに気づけない

「心の深いところを扱う、するとドーンと沈むことこそ、あなたのセルフのB」と伝えると優秀な受講生はハッとした。

これこそが受講生のパターンを作り出している根源的なセルフのBのひとつだ。受講生は志望大学を10代の時に諦めている。いや、丁寧に書ければ、親が希望していた職業に就くことを自分の希望であると捉え、親の期待に沿うように頑張ってきたのだけど、大学進学の際にそれが叶わなかった。つまり、受講生は10代で大きな挫折を経験していて、挫折感とか絶望感といったセルフのBを持っていて、この感覚を自分だと深い無意識で感じている。このセルフのBを放っておけば、せっかくうまくいっているビジネスもある程度うまく行き出すとどこかで無価値に思え、意識では決して選択しない選択を無意識で選び、業績は落ちていく。ただ、本格的に行き詰まると意識ではうまく行かせようとするからまた、ある程度まではうまくいくが、また挫折感が懐かしくなる。といったことを人生全体を使って繰り返す。

受講生が「セルフのBを扱うと、ドーンと心が沈む。何もやる気が起きなくなる」と感じていたのは意地悪な言い方をすると、無意識的に会社の業績を上げないために経営者自ら会社に行かないようにする。「会社に行かない」という選択をするために「落ち込み」を作り出す。「落ち込み」を作り出すために今回は、4nessコーピング講座を利用したとも言える。

 セルフのBが厄介なのは、それが自己確認となるところだ。セルフのBは自分のアイデンティティの一部であるからこそ、例え世間の価値観的には良くない状態であったとしても、どこかで懐かしい自分に出会えたようでホッとする。うまく事が進もうとすると昔のセルフのBが懐かしくなる。だから、人は同じことを人生で繰り返してしまうのだ。

受講生は少し外の風を感じたいとセミナー会場から出て行った。しばらくして戻ってきた受講生は、子どもの頃の話をしてくれた。いくつの頃だったかももうわからないが、この感覚は押し入れに入って暗い中、体育座りをしていた感覚と同じだと言う。そして、その感覚はとても懐かしく美味だとも。

優秀な受講生はこの感覚を素直に味わい、それを言葉にもできた。セルフのBはアイデンティティの一部であるからこそ厄介で、しかし自分の居場所でもあるからこそ手放せない。しかし、無意識の領域であるセルフのBが意識化できると現実は変わる。この受講後、会社に行きたくないと言っていた受講生は右下がりだった経営を見事に立て直す

しかし、ここまでは想定の範囲である。「落ちる→上がる」を10代から繰り返して自己確認しているのだから、このまま行けばまた落ちる。別の言い方をすると、落ちてまで自分が頑張らざる得ない状況を作り出しているとも言える。ではなぜ、わざわざ頑張る状況を作りだし頑張るかというと、鬱的な自分の存在が消えて無くなりそうになるというか、存在がしぼんでいくことに抗じるためだ。順調に行き始めると自分の存在が希薄に感じてくる

ここには深い本質的な課題がある。創業経営者には特に感じることが多くあるが、会社を創業するエネルギーは自分の存在をかけたとてつもなく大きいものだ。その大きなエネルギーの裏には優越感に変えたいほどの強い劣等感がある。受講生が繰り返して起こしているパターンは存在の感覚、存在の確認への飢えへのSOSだ。類にもれず私も創業経営者である。言葉にできないところで受講生の深い哀しみがズンと伝わってくる。誰もが、いや本人さえも理解できない哀しみに受講生はさぞ辛かっただろう。「よく頑張ってきた!」と受講生に私は声をかけたい。

受講生の課題は実は業績が上がった、よし!ここからが本当の取り組みとなる。受講生は見事にV字回復を成したわけだが、今までのパターンだと受講生は達成してくると「何だったんだろう?」ときっと思い始める。そしてまた、頑張らざる得ない状況まで自分を追い詰めることになるだろう。

自分の存在の感覚や確認への飢えへのSOSといった課題を取り扱うには、まずはdoingレベルでの成果を上げ、収入を上げ、存在の価値を追い求める必要がある。そうしながら、自分の中であることを感じつつ、受け止めつつ、受け入れつつ、を磨いていく。感じずに生きるのもひとつの手ではある。が、優秀な受講生が感じることを放棄するにはお酒の力が必要となるだろう。たまには良いが常になっては得策ではない。

セルフのBを意識しつつ、自分の中に起きていることによく気付いて、だからどうする?だからどうしたい?と自分に問い、十分にOKを出して歩みを進めて行くことが必要となる。

 新しい役割、新しいステージの自分を作り上げるときは心の奥底の襞を理解してくれる人が必要だ。4nessコーピングはその役割の一端を担えると自負している。

スタートラインに立ち、本当の課題に向かっていく受講生の今後が私は楽しみでならない。