感情の取り扱い事例
職場の人間関係がうまくいかない。。。【2】
怒りの裏にある感情とは
受講生は職場の人間関係でつまづくことを繰り返していた。(詳細は前号を。)
その理由が感情の投影図を書くことで、職場の人間関係を使って「自分が大切にされるか価値を確認していた」というものだった。自分の価値を確認しなければならないのは自分が自身の価値に脆弱だとも理解はした。歪んだセルフのB(自己認知)に気づけば、問題は8割解決する。しかし、受講生はセルフのBを頭では理解したものの、一体、何をしたらいいのかわからない状態だった。
そこで、受講生に意地悪をする上司の認知を見立てることにした。他者のセルフのB(自己認知)を見立てることは、時に自分のセルフのBを見立てるより有効な場合がある。
いじわるな上司が、勤務初日の受講生に与えた仕事は専門以外のものばかりだった。専門職の仕事を振った際には「時間の中で頑張ってみます」という受講生に「あなた、やってきたんでしょ?」といった口ぶりだった。どう考えても受講生が気に食わないようだ。いや、完全に受講生を敵対視している。
そりゃそうかもしれない。意地悪な上司の立場になればその気持ちもわからないでもない。そもそも受講生がその職場に送り込まれた目的は、有資格者がいない職場に資格を持っている受講生が必要だったからだ。その支店の成績は非常に悪く、その理由を有資格者がいないことだと周りは考えていて、受講生はやっと登場した望まれた存在なのだから。
えっ!成績の悪い支店の人なら、有資格者である受講生が来るのは大賛成じゃないの?と思われる方も多いと思う。しかし、社会は仕事の目的を正しく理解した成熟した大人ばかりじゃない。
支店の意地悪な上司は、支店の成績が振るわないことを「なぜ、成績が悪いんだろう?私が悪いから?きっと私がダメなんだろう…」と日々、自分を責めていたのではなかろうか。そんな中、自分だけでは成績が上がらない支店にニューフェイス(有資格者だとしても)が登場して成績が上がったら、自分の評価はどうなるのだろう?評価どころか、その支店に必要な人材かどうかさえ疑われてしまうんじゃないか?と恐れを抱いていたのではないか。その上、有資格者である受講生はパートとしての採用。しかも、明るく快活で若くて可愛い。そりゃ面白く感じないのは自然なことだと思う。(ちなみに意地悪な上司は女性)
丁寧に書けば、当然支店の成績が上がるのは嬉しいのだけど、手放しで喜べない。「有資格者は必要な存在でありがたいと思わなければ!」と頭では理解はしているが、気持ちがついていかない。「気に食わない。」「なんで?」「私じゃダメだと言われているよう。」と感じている可能性は高い。
きついことを言うようだが、事実、受講生だって本来の仕事の目的とは違うことを職場で確認しようとしていたじゃないか。職場の人間関係を利用して自分の価値を確認しようとすることは仕事の本来の目的だろうか?いや違う。つまり、このケースは受講生と意地悪な上司のセルフのB(自己認知)が共鳴して起こっている出来事だと捉えられる。
ふたりの怒りは「人から丁寧に扱われない自分には価値がない」という哀しみに、意地悪な上司は「支店の成績を上げることが出来ない自分には価値がない」という哀しみに感じていた二次感情なのだ。怒りの裏には喪失感や悲壮感がある。その喪失感や悲壮感を一次感情と呼ぶ。そして、本来の思いの一次感情より二次感情が表面化する。
意地悪な人のセルフのB(自己認知)は見立てれたが、これを読んでいる読者は意地悪な上司を見立てる必要もないじゃんと思われたかもしれない。どこの職場に行っても意地悪な人はいるものだ。全員が成熟している職場にはなかなか出会えない。受講生はなぜここに気づけなかったのだろう。とても賢い受講生なのに…。
その原因のひとつは、受講生が自分のことばかりに夢中だったからだ。受講生は「自分がどういう扱いを受けるか?」に注力しすぎて周りや事実を見れなくなっていたんだ。転職を繰り返した過去の職場でもそうだったかもしれない。
意地悪な上司は可哀想な人じゃないか。年齢を知らないが、役職もついているのだし良い年齢だろう。なのに自分の立場を危ぶみ、保身を考えなければならないぐらい自分に自信がないのだ。年齢を重ねる恐ろしさはここだ。仕事の結果はわかりやすくその人の力の一面を示すことがあるが、年相応の成熟をしているかどうかは普段、明確にわからない。
「こういう人をファンに出来るぐらいの力をつけていこう!」と受講生に伝えると、「お客様ならできるんですけど…職場の人にはそう思えない」という返答が返ってきた。受講生に本来の仕事の目的を尋ねた時も「お客様のためだ」とハッキリ言った。その通り!だ。間違っていない。しかし、お客様に心から喜んでもらうためには、そのチーム全体で臨まなければならない。一人では限界があり、最高のパフォーマンスは提供できないのだ。だからこそ、良い仕事をするにはマンパワーもさることながら、チームワークが大切になる。
お客様に見せる顔とチームメンバーに見せる顔の二つの顔を受講生は持っているように感じた。人によって顔を変えることは決して良いことじゃない。成熟した大人はどこでも同じ顔をしている。お客様にも、チームにも、上司にも、同僚にも。人によって顔や態度を変えるのは成熟した大人がやることじゃない。顔は一枚がいい。だからって無理やり同じ顔を作ろうと頑張って努力していると必ず不自然になる。一枚をやる工夫をしなければならない。いつ、誰と会っても同じ顔でいられるように。まとまりある自己とはそういうものだと私は思っている。
受講生は「だから、職場では話し合いをして決めるのがルールだと思っている。が、私はディスカッションのつもりだけど強く聞こえるようで。。。」と続けた。
そっか!そこにも誤認知があるんだ…。そりゃ仕事がスムースに行かないだろう。
コミュニケーションに対する間違った認知について緩めていく必要がある。これについては次回。